約4時間49分に及ぶCardanoコミュニティの討論 「Does Cardano Want To Win?(Alpha Growth edition)」を、 雑談を取り除き、要点だけを図解つきの日本語に再構成しました。 DeFiコンサル AlphaGrowth の提案を軸に、「慈善事業 vs ビジネス」という Cardanoの根本的な問いを整理します。
TL;DR
登壇者たちが最も熱を込めて主張した核心は、次の3点に集約されます。
⚠️ この資料の位置づけ
本資料は、非公式なコミュニティ討論で登壇者が述べた意見・主張を整理・翻訳したものです。 Cardano公式の見解でも、投資助言でもありません。数値や固有名詞は音声からの自動文字起こしに基づくため、 一部に聞き取りの誤りや誇張・冗談が含まれる可能性があります。事実確認は一次情報でお願いします。
01 ・ Background
まず、この音声がどういう場のものかを押さえます。
これは、Cardanoコミュニティの有志が集まったライブ音声討論(Space)です。ホスト役の Esco を中心に、DeFiコンサル AlphaGrowth を推す Phil、実務家寄りの Rizzo、 相場観を語る Riley、事業観点で議論する John Kravitz、Cardanoのプライバシー基盤 Midnight を 開発する Micro(Michael) らが参加しています。
雰囲気は極めてラフで、討論のおよそ半分〜8割は雑談(サッカー、食べ物、ラップ、内輪ネタ)です。 本資料はそれらを取り除き、実質的なCardano・DeFi・ガバナンスの議論だけを抜き出して再構成しています。
👥 主な登壇者(役回り・X)
| 人物 | 役回り | X |
|---|---|---|
| Esco | ホスト。「Cardanoはビジネスとして動け」という論陣を張る中心人物 | @ESCOweb3 |
| Phil | DeFiの実務・数値を最も詳しく解説し、AlphaGrowth提案を推進(AlphaGrowthの社員ではない)。討論内で自身のL2 Midgardにも言及 | @phil_uplc |
| Rizzo | 元Cardano系の実務家。流動性設計などを冷静に指摘する | — |
| Riley | 開発者・共同ホスト。マクロ相場観・DeFi投資テーゼを担当 | @ILikeCardano |
| John Kravitz | 事業者。「利益 vs エコシステム成長」でEscoと対立 | — |
| Micro (Michael) | Midnight/Genesis Nightトークンのシニア開発者 | — |
4時間49分のうち、大半は雑談(サッカー、食べ物、ラップ、内輪ネタ)です。本資料は、その中から 実質的な論点だけを抜き出して再構成しています。ざっくりの内訳イメージがこちら。
なお、この議論が単なる内輪の愚痴で終わらないのは、背景に実際に進行中のガバナンス投票(AlphaGrowth提案とNCL拡張)があるからです。 「勝ちたいのか?」は抽象論ではなく、今まさに国庫の資金をどう使うかという具体的な意思決定に直結しています(詳細は第3〜4章)。
02 ・ Core Thesis
討論を貫く最大の主張は「慈善事業ではなくビジネスとして動け」です。
Escoらの主張の核は明快です。「あらゆる支出にはROI(投資対効果)が必要だ。リターンを生まなくなった瞬間、その担当は切るべきだ」。 ところがCardanoの国庫(トレジャリー)は、実績のない「実験的で夢のある」プロジェクトばかりに資金を出し、 確実で商業的な支出を拒む——それはビジネスではなく慈善事業の動き方だ、と批判します。
「業界の他は皆、ビジネスとして動いている。Cardanoだけが、まるで慈善事業のように動いている。」
"The entire rest of the industry is moving like it's a business. Cardano is moving like it's a fucking charity."
さらに論点は「勝つ(win)」から「生き残る(survive)」へと引き下げられます。米国のClarity Act(暗号資産の規制明確化法案)成立や 主流採用が来るまで、Cardanoは生き延びる必要がある。「どれだけ技術的に優れていても、死んでしまえば誰も気にしない」というわけです。
「もし死んでしまったら、どれだけ素晴らしかったかなんて、誰が気にする?」
"If it dies, who gives a shit how great it was?"
この主張を支えるキーワードは「ROI(投資対効果)」「撤退基準」「責任の所在」の3つです。 ビジネスなら当然あるこれらが、Cardanoの資金配分には欠けている——だから 「群衆の知恵」型ガバナンスのもとで、 効果の検証も撤退もないまま資金が流れ続ける、というのが批判の骨子です(詳細は第7章)。
🔍 一歩引いて見ると本資料の見方
「慈善 vs ビジネス」はやや単純化との見方もあります。 公共財(パブリックグッズ)や研究・分散性は短期ROIで測りにくい一方、"活動"という土台がなければ活きないのも事実。 両者は本来対立せず、どうバランスを取るかが論点でしょう。
03 ・ AlphaGrowth
討論の具体的な焦点となった提案。「実績で選ぶ」の象徴です。
AlphaGrowth は、討論の中でDeFiコンサルティング会社として紹介されます。Phil側が数か月かけて、 他チェーンでDeFiエコシステムを成長させた実績を持つ企業を精査し、選び抜いた相手だと説明されます。 その売り込み文句は「主要なブルーチップ・プロトコルがこぞって使ってきたDeFiコンサルだ」—— Uniswap/Compound/Arbitrum/Consensys などのキャンペーン実績が挙げられます。
「私は"約束する人"ではなく、"数字の人"だ。証明された成功の履歴が見たい。」
"I'm not a promises guy, I'm a numbers guy. I want to see proven history of success."
— Phil(DeFiの解説役・AlphaGrowth提案の推進者。AlphaGrowthの社員ではない) ・ @phil_uplc ・ ▶ 音源(一次資料)
Philは、DeFiLlama上位30アプリを調べ、それらが使うコンサルを全て洗い出し、過去のキャンペーン履歴を比較したと語ります。 重視した指標は次の2つです。
具体例として、Compound のキャンペーンでは9億ドルのTVLを呼び込み、インセンティブ終了から数年後も 約7.95億ドルが残った、と主張されます(=定着率が高い)。討論では、こうした「50回やって成功した相手が51回目もやる」方が、 実績ゼロの相手より財政的に責任ある支出だ、という論理が繰り返されます。
「誰かが何かを50回やってのけて、"51回目もやる"と言うなら、それは"財政的に責任ある支出だ"と言える非常に強い根拠になる。」
"If someone has done something 50 times… and they say, I'll do it 51 times, then you have a very strong reason to say, oh, this is a fiscally responsible spend."
討論では「実績があるから安心」だけでなく、進め方も語られました。核心は 「いきなり流動性を"供給"するのではなく、活動を"誘引"する」こと——とりわけ ステーブルコインの流動性を、LP(流動性提供者)への補助金(subsidy)で呼び込み、 新規資本をCardanoに引き込む設計です。成功例としてHyperliquidの大規模エアドロップが挙げられました。
そして実際に提出された提案(正式名 Cardano Prime/PRIME)の具体像は次の通りです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 形式 | 12か月・フェーズ型のプログラム |
| 要求額 | 約 1.2億 ADA(ADA=$0.16換算で約 $19.2M) |
| Phase 1 | Cardano DeFiのインフラ・アプリ・流動性ギャップの徹底監査(audit) |
| 整備対象 | ステーブルコイン流動性/マネーマーケット/DEXの板の厚み/ブリッジ/オラクル |
| 目標 | 新規TVL $200M+(Cardano DeFiを約$90M → 約$290Mへ) |
| 効率(主張) | TVL $1 を呼び込む国庫支出 ≈ $0.073 |
| 実績(主張) | Compound(9億呼込/7.95億定着)・Uniswap・Arbitrum、累計 $1B+ TVL 支援 |
ここまでの手順を1つの絵にすると、こうなります。AlphaGrowthは自分でDeFiアプリを作るのではなく、 止まった「弾み車(フライホイール)」を最初だけ外から押して、あとは自走させるのが狙いです。 DeFi が育たない悪循環(図7)を、逆回転の好循環に反転させるイメージです。
この弾み車が本当に自走するには、注入した資本の“働き先”(高利回りを生む洗練されたアプリ・コンポーザビリティ・実需)が必要です。 そしてCardanoに足りないのは、まさにそのアプリ層。だから成否は2つの半分がそろうかにかかっています。
🟢 解ける半分(AlphaGrowthの得意技)
お金(流動性)を“呼び込む”。実績ある報酬設計で、外部資本とTVLを集める部分。ここは他チェーンでの実績がある。
🔴 解けない半分(同時に必要)
呼んだお金の“働き先”=洗練されたアプリ・実需。ここが育たないと、報酬が切れた瞬間に抜けて「傭兵流動性」で終わる。だからこそMidgardや実プロトコルの並走が鍵になる。
🧭 ひとことで言うと
AlphaGrowthは「ポンプの呼び水」にはなり得る。だが「水が流れ続ける」保証は、 作り手側(良いアプリ)の並走があって初めて成立する——というのが冷静な見立てです。 (※提案の分析であり、投資助言ではありません)
🔍 一歩引いて見ると本資料の見方
実績がDeFiサマーの追い風下だった点、指標が自己申告である点は、割り引いて見る必要があります。 一方で提案書は数字が細かく開示され、検証はしやすい。定着率(stickiness)の"再現性"をどう評価するかが、判断の分かれ目です。
04 ・ Treasury & NCL
AlphaGrowth提案の「前提」となった、Cardanoガバナンスの予算枠。
NCL(Net Change Limit=純変動上限)は、討論の中で「Cardano版の予算枠」のように説明されます。 一定期間に国庫から引き出せる総額の上限を定めるガバナンス・パラメータです。討論では、 「自立の見込みのないガラクタ案件」に出しすぎたせいでNCLがほぼ使い果たされている、と語られます。
AlphaGrowthの要求額(討論では約1.2億と言及)は、NCLの残り(約5,000〜6,000万)を上回るため、 まずNCL拡張の提案が「前提(precursor)」として提出された、という構図です。ただし——
🚧 NCL拡張が通っても、AlphaGrowthが通るとは限らない
登壇者は「ハードルを越えても、まだ世界王者と600mを走らねばならない」と例えます。 NCL拡張は資金枠を空けるだけで、提案自体の可決は別の投票、という二段構えです。
もう一つの肝は、国庫がADA建てである点です。ADA価格が下がると、同じADA枚数でもドル換算の価値は目減りします。 討論では、かつてCatalystの1ファンドで$50〜70Mを配ったが、これは当時のADA価格なら巨額のADAに相当した、と語られます。 Escoは「Catalystは他人の金で15シーズンも"実験"を回してきた。自分の金なら2シーズンももたない」と手厳しく批判します。
🔍 一歩引いて見ると本資料の見方
NCLは支出の歯止めでもあり、"安易に緩めるべきでない"という慎重論も成り立ちます。一方、使途が明確なら枠を空ける合理性もある。 討論の細かな数字の食い違いは文字起こしの綾なので、本筋とは切り分けて読むのが妥当でしょう(気になる桁は一次情報で確認を)。
05 ・ Why DeFi Failed
「流動性の"供給"と"誘引"は違う」——ここが最重要の技術的論点です。
Rizzoが指摘する核心は、流動性の「供給(provision)」と「誘引(incentive)」の混同です。 過去のNCLでは、活動も基盤も乏しいCardanoにいきなり流動性を"供給"する形で5,000万規模が投じられました。 しかし活動のない場所に置かれた流動性は、変動損失(IL)に食われ、最後は「出口の流動性(exit liquidity)」—— つまり他人が逃げるための資金——になって溶けてしまう、というのです。
もう一つの落とし穴が「傭兵流動性(mercenary liquidity)」。インセンティブ設計が甘いと、 たとえば創設エンティティ自身が大半の流動性を出し、報酬をウォッシュトレードで抜き取る、といったゲーミング(悪用)が起こり得ます。
「そもそもADAと何かのトークンのペアを組むこと自体が、"二重の変動損失"で金を失う温床なんだ。」
"Having an ADA pair with whatever token in the first place is like a double whammy impermanent loss haven for losing money."
🧊 「安定利回り」が一度も存在しなかった
ADAステーキングは約2〜3%だが、変動の激しい資産で得る利回り。一方、ドル建てステーブルなら 変動なしで約4%。「Cardanoはその歴史を通じて一度も"安定利回り"を持ったことがない」と指摘されます。
討論では、過去の具体例も引き合いに出されます(抽象論ではなく、実際にあった話)。
いずれも第5章の核心——「ただ供給するだけでは、お金は働かない」——を補強する例として語られます。
🔍 一歩引いて見ると本資料の見方
傭兵化のリスクは、誘引型のインセンティブでも残ります。ただAlphaGrowthは定着率を重視しており、そこは強み。 ステーブル中心は"損しにくい"反面、利回りは薄い。最終的に「居着く」かは、その先の実需(第6章のアプリ層)次第——という条件付きの評価になります。
06 ・ Activity > Tech
Ethereumを支えるのはL1ではなく"アプリ層"だ、という主張。
Philの論点は挑発的です。「Ethereumを運んでいるのはVitalikではない。アプリ層だ」。 EthereumのL1は遅く(約20TPS)、スケーリングも進んでいない。それでもTVL・取引・活動が最多なのは、 Uniswap/Aave/Curve/Morpho/Compound といった稼ぐアプリが乗っているからだ、と言います。
「Ethereumを支えているのはVitalikではない。アプリ層だ——Uniswap、Aave、Curve、Morpho、Compound、Alchemix。」
"It is not Vitalik carrying Ethereum. It is the app layer — Uniswap, Aave, Curve, Morpho, Compound, Alchemix."
— Phil ・ @phil_uplc ・ ▶ 音源(一次資料)
裏を返せば、もしMorphoやEthenaのような優れたアプリがCardanoに来れば、L1がショボくても関係ない—— LPは約20%のAPYで資金を預けるだけだから、高頻度処理は必須ではない、という論理です。
Philは、DeFiの資金の大半はミームのデイトレではなくVault(自動運用の金庫)だと強調します。 Coinbase EarnやKraken Earn は裏でMorpho Vaultに支えられており、ユーザーは自分がDeFiを使っていると気づいてすらいない、と。
🏅 黄金律:「流動性提供者は決して損してはならない」
Vaultは最適な運用戦略(ループ、裁定、ステーブル同士のペア等)をスマートコントラクトに組み込み、 素人でも年4%ではなく9〜16%を得られるようにする。リスクは投機トレーダー側に寄せ、 LPの唯一のリスクはコントラクトの脆弱性のみにする設計思想です。
Escoは、Solanaが伸びた理由を「活動をゲーム化(gamify)した」ことに求めます。出来高・TVL・取引数・ デイリーアクティブを意図的に積み上げ、DeFiLlamaの上位に載る。ユーザーは上位5チェーンから選ぶのだから、 「KPIゲームをやらなければ、そもそもレースに出場すらできない」というわけです。
「KPIゲームをやらないなら、競争に席すらない。レースに出ることすらできないんだ。」
"If you do not play the KPI game… you don't even get to run the race."
この文脈で繰り返される比喩が「車の通らない道にガソリンスタンドは建てない」。 1万台が通る道に店を出せば儲かる——だから、まず活動(トラフィック)を作れ、という主張です。
Escoは、ある提案の「50万ユーザー獲得」という主張に噛みつきます。業界平均の CAC(顧客獲得コスト)は1人あたり約$150。 50万人 × $150 = 約7,500万ドルで、提案の予算(約9M ADA≒$250万規模)とは桁が合わない——「嘘か、算数ができていないかだ」と一刀両断します。
🔍 一歩引いて見ると本資料の見方
「技術は無関係」とまでは言えず、Ethereumの強さはネットワーク効果や時間の蓄積にも支えられています。 一方で"活動がなければ始まらない"のも確か。Cardano独自のeUTXOの難しさをどう見積もるかで、評価は変わってきます。
07 ・ Governance
「情報の非対称性」と「群衆の知恵」への痛烈な批判。
登壇者が最も苛立ちを示すのがDRep(委任代表)の意思決定です。主張によれば、DRepが1つの議題について 持っている情報は全体の2〜5%程度にすぎず、提案文を斜め読みして表面的な検索をする程度。 一方でPhilはAlphaGrowthについてほぼ80〜100%の情報を持っている——なのに「誰もPhilに話を聞かない」と言います。
💬 「2〜5%問題」への処方箋 = 本人に直接聞く
この情報格差こそ、討論者が「DRepはもっと当事者に直接あたるべきだ」と訴える理由です。 DeFiの論点を最も詳しく語っていた Phil のXは @phil_uplc。 提案の是非を判断する前に、まず一次情報にあたる——それがこの資料の趣旨でもあります (他の登壇者・音源リンクは末尾「情報源」に)。
悪い投票の原因は2つに整理されます。①情報不足(=修正可能)、または ②理想主義・"無知"なマインドセット/「1 ADAは1 ADA」的な発想(=修正困難)。 後者の「1 ADA is 1 ADA」は、Cardano界隈でしばしば語られるガバナンス上の理念ですが、 登壇者はこれを商業的合理性を欠いた発想として批判します。
「一部のDRepは、n乗のレベルで"絶対的な確実性"を求める。そんなのは意味をなさない……スターバックスに車で行くだって、リスクはあるんだ。」
"Some of these DReps want absolute concrete certainty to the nth degree… If I drive to Starbucks there's risk."
Escoは、根本原因を「群衆の知恵(wisdom of the crowds)」型ガバナンスに求めます。 強い意思決定者も、説明責任も、予算配分(例:15%/20%といった枠取り)もない—— 基本的なビジネスの原則が欠けている、と。「Catalystは15シーズンにわたり他人の金で 2,500〜5,000万ドル規模の"実験"を回してきたが、自分の金なら2シーズンももたない」と手厳しく批判します。
🧭 顧客起点で考えよ(Start with the customer)
スティーブ・ジョブズの「顧客から始めて逆算する」を引き、Cardanoの差別化点が Lily作成の比較表で「ガバナンス」だけだったことを問題視。「"ガバナンスが強み"を見て そこに投資しようと思う企業がどこにいる?」と問いかけます。
Escoはさらに、賛否の投票結果を数値化し、「コミュニティが"商業化"と"理想主義"のどちらへ傾いているか」の"哲学的ベンチマーク"を作るという案も口にします。 根っこにあるのは、予算の枠取り(例:15%はこれ、20%はこれ)や撤退基準といった"基本的な経営原則"の不在への苛立ちです。
🔍 一歩引いて見ると本資料の見方
情報の非対称は当事者の自己申告でもあり、提案者が最も詳しいこと自体は"判断の正しさ"を保証しません。 同時に、慎重すぎて何も通らないのも問題。「誰に・どこまで聞くか」の設計こそが、実際の論点だと言えます。
08 ・ Midnight
批判一色ではない。Cardanoの「勝ち筋」として期待される基盤。
討論の中で数少ない前向きな期待が寄せられるのが Midnight です。 Johnnyは「史上最高のプロトコルの一つになり得る」と評します。すなわち—— プライバシーを保ったデジタルID、自分のデータを自分で保有する仕組み(=オーウェル的監視社会の逆)、 そしてプライバシーを守りつつ監査可能なdAppをCardano上に構築できる、という点です。
⏳ 2〜3年で"売れる価値提案"が要る
GENIUS Act以降、Robinhood・Google・Appleのような企業が自前チェーンを持つ時代が来る。 Cardanoは今後2〜3年で明確に売り込める価値提案を用意しないと「叩きのめされる」との危機感が語られます。
Midnightの肝は、ふつうは相反する2つ——「秘匿(プライバシー)」と「監査可能(コンプライアンス)」——を 同時に成り立たせようとする点にあります。だからこそ、企業・規制の世界でも使える"本命ユースケース"になり得る、という期待です。
具体的には、プライバシーを保ったデジタルIDや、自分のデータを自分で保有する仕組み(=オーウェル的な監視社会の逆)を、 ブロックチェーン上で実現しようとします。Genesis Nightトークンの開発者 Micro がこの陣営で、 討論の"荒らし役"に見える面々が、実はこうした基盤を作っている当事者だ——という自己言及もありました。
関連して、Phil自身のL2プロジェクト Midgard(誰でもL2を立ち上げられるオープンソース基盤)にも触れられます。 公開テストネットは討論時点で「約2か月後」、さらにスケーリング技術 Leios も控えている、とされます。
🔍 一歩引いて見ると本資料の見方
Midnightは未実証で、プライバシーと規制対応の両立は容易ではなく、競合(Zcash、各種ZK系等)も多い領域です。 ただ方向性の筋は良く、Cardanoの差別化要素になり得る。期待と不確実性が同居する段階、と見るのが妥当でしょう。
09 ・ Market & RWA
「なぜ今DeFi/RWAが最重要なのか」——相場のタイミングから、機関マネーの大きな潮流まで。
ここは、多くの人が最も気になる「で、結局いつ・何に注目すればいいの?」という部分です。 討論では、①相場サイクルのタイミング、②何に投資テーゼを置くか、③RWA(現実資産)という大きな地殻変動—— の3層で語られました。順に見ていきます。
RileyはBTCの安値圏(6万ドル台前半)で買ったとしたうえで、当面のシナリオをこう描きます。 一旦の戻り(リリーフ・ラリー)で最大7万ドル付近 → その後 5万ドル付近まで押す、あるいは 「価格の暴落なき時間的な投げ(キャピチュレーション)」として6万〜6.5万ドルで数か月レンジ、というものです。
「1月までに大底をつけないものは、たぶんもう底をつけない。おそらくそのままゼロへ向かう。」
"If something doesn't have a bottom by January, it's probably not gonna have a bottom — it's probably just gonna go to zero."
— Riley ・ @ILikeCardano ・ ▶ 音源(一次資料)
Rileyたちが選好するのは、BTC/ETHそのものよりも、手数料などの実収益を上げ、それをトークン保有者に還元するプロトコルです。 ポイントは「株式(equity)なのかトークンなのか曖昧」ではなく、収益の出どころと配分が透明であること。 注目すると挙げられた顔ぶれはこちらです。
| トークン/カテゴリ | ざっくり何者か |
|---|---|
| HYPE(Hyperliquid) | オンチェーン永久先物取引所。手数料収益を価格に還元 |
| Morpho | 貸借(レンディング)+Vault(金庫)。CoinbaseやKrakenの裏でも稼働 |
| Ondo | 米国債などRWAのトークン化の代表格 |
| Aerodrome / Lighter 他 | DEX・板取引系。手数料を参加者に配分するモデル |
重要なのは、これらがBTCが下げる局面でも価格が上へリレート(再評価)し始めていること、そして TradFi(伝統的金融)の資金が買い始めているという変化です。かつては投機で乱高下していた層が、"収益を見て"買う対象に変わりつつある、という指摘です。
そして最大の文脈がRWA(現実資産のトークン化)。ブロックチェーンはあくまでインフラであり、 現実資産がその上に載るのは必然——というのが根底の世界観です。実際、 JPモルガン・Fidelity・Franklin Templeton・BlackRock が既存の金融レールと並行してオンチェーンのプログラムを走らせている、と語られます。
なぜ"必然"なのか。討論では10〜15年の時間軸で語られます。ブロックチェーンが 「速い・安い・24時間365日」であることが証明されれば、国際送金・FX(為替)決済や、 実利回り(リアルイールド)—— たとえば米国債の利回りや、同種資産どうしのDEX利回り(alETH↔ETH、USDC↔USDT のような)——が オンチェーンで実現していく、という筋書きです。
💳 すでに始まっている:Visa・MasterCard
両社はUSDCでの即時決済を始めており、加盟店は ACH(銀行間送金)や 決済業者を挟む数日の遅延を経ずに、その場でドル建てで受け取れる。 いわゆるT+3決済(約定から3営業日後に決済)という古い仕組みを、オンチェーンが置き換えていく、という具体像です。
🔍 一歩引いて見ると本資料の見方
RWA・機関マネーは業界全体の潮流で、その恩恵をCardanoが取れるとは限りません。波に乗れるかは"活動"次第で、そこにAlphaGrowthの役割がある、という関係です。 (相場の時期予測は個人の見立てなので、そこは幅を持って。)
もう一つ、多くの示唆を含む対立軸が「利益 vs エコシステム成長」です。 Escoが「常に"金を稼ぐこと"が第一だ」と言うのに対し、John Kravitzは 「稼いでいてもエコシステムが成長していないなら、ただ縮小させているだけだ」と反論します。 手数料を取るだけで新しい資本を呼び込まないプロジェクトは、パイを食いつぶすだけだ、という論理です。
Johnはその実践として、具体的な二段構えの戦略を語ります。
自社のBitcoinプラットフォームでステーキングを提供し、 TVL(預入額)を先に積む (ローンチ前に約30人が参加、募集は7月25日、と言及)。
預かったBTCを担保にCardanoのステーブルコインを借り出し、 コンポーザブル(組み合わせ可能)なDeFiへ展開する。
彼らのRWA商品は「ユニコーン級(7桁ドルの収益ポテンシャル)」の本命だが、 Cardanoには利用者・活動が足りないためマルチチェーンで出さざるを得ない——という本音も語られます。ここに、次の名言が刺さります。
「私はCardanoで一番の製品になりたいんじゃない。暗号資産全体で一番になりたい。そして今のCardanoでは、それは不可能だ。」
"I don't want to be a top product on Cardano. I want to be a top product in crypto, period. And that is not possible on Cardano right now."
— John Kravitz ・ ▶ 音源(一次資料)
🧸 「Fisher-Price(幼児向けおもちゃ)の"はじめてのブロックチェーン"状態」
Fisher-Price は「はじめての電話」など、乳幼児向けの単純なおもちゃで有名なブランドです。 つまりこの一言は、「Cardanoは“おもちゃレベル”の初心者向けブロックチェーンから卒業できていない」という強い皮肉。 EthereumやSolanaにあるような高度で専門的なアプリ(洗練されたVaultやデリバティブ等)が育たず、 単純な機能しかない、という指摘です。
なぜそうなったのか——登壇者はこれを「ニワトリと卵の悪循環」だと説明します。 活動がないから高度なアプリで稼げない → だから誰も作らない → 単純なままで魅力がない → だから活動が来ない、 という入口でつまずいた状態です。
だからこそ、外部からインセンティブ(=AlphaGrowth)で"活動"を注ぎ込み、この輪を断ち切る必要がある—— という本編の主張につながります。「車の通らない道」に、まず車を走らせる、というわけです。 第3章の好循環(図8)と並べると、この資料全体の骨子が1枚で見えます。
10 ・ The Hyperliquid Lesson
同じような製品でも、勝敗は「どの市場で立ち上げたか」で決まった——Cardanoに最も刺さる教訓。
ここは「Cardanoは勝ちたいのか?」というタイトルに最も直接効いてくる話です。 Hyperliquid(オンチェーン永久先物取引所)がなぜあれほど成功したのか——討論の結論はシンプルで、 「製品が飛び抜けて良かったからではない。立ち上げた"市場"が良かったからだ」というものです。
「DYDXは本質的にHyperliquidと同じだ。製品の質に、市場での成功の差を説明できるほどの違いはない。」
"DYDX is fundamentally the same as Hyperliquid. There's not enough of a difference in product quality to account for their difference in success in the market."
— Phil ・ @phil_uplc ・ ▶ 音源(一次資料)
裏を返せば、これは「活動の乏しい市場(=今のCardano)で立ち上げることの不利」を示す教訓です。 どれだけ良い製品でも、車の通らない道に出せば埋もれる——だからこそ活動を作れ、という本編の主張と一直線につながります。
討論では、Hyperliquidのルーツについても議論が白熱しました。事実確認の難しさも含め、こう整理できます。
AlphaGrowthのEric(Cosmosに6年在籍と言及)からの伝聞として、 「HyperliquidはCosmos発だ」と主張。
裏付けが取れず(AIで調べても出てこない)、懐疑的な立場。
Hyperliquidは初期にTendermint(Cosmos由来)を使い、 後に独自の Hyper BFT へ移行。真のアプリチェーンではなかった。 一方、精神的な先行者 DYDX はCosmos SDKのアプリチェーンへ移行し、Injectiveも Cosmos SDK。
取引所が生む出来高(ボリューム)を"何に使うか"で、プロジェクトの性格が分かれる、という整理です。
| モデル | 例 | やっていること |
|---|---|---|
| 抽出・流出型 | Aster | 出来高からゆっくり抜き取り、別の何か(CZ/Binance系の事業等)の原資に回す |
| 抽出+還元型 | Hyperliquid | 抽出しつつ自分の市場価格に還元し、FOMO(買い煽り)を生んで好循環に |
| アセットライト型 | Lighter | 資産を抱え込まず身軽に回す |
🔎 市場の"目"が変わった(この6〜12か月)
Rileyは、市場が「実際の収益と、その使い道」を厳しく見るように変わったと指摘します。 かつての「Twitterの投稿で投機を煽る」だけのモデルは通用しなくなりつつある—— つまり、本物の収益とアラインした設計でなければ生き残れない時代になった、という締めくくりです。
🔍 一歩引いて見ると本資料の見方
「市場で決まる」は一面の真実であり、同時に実行の甘さを覆い隠す言い訳にもなり得ます。 とはいえ"どの市場で出すか"が結果を左右するのも確か。Cardanoの不利を直視して条件を整える、という問題設定自体は妥当と言えます。
Overall ・ 本資料の総評
熱量の高い一方向の議論ですが、要点は冷静に評価できます。強みとまだ答えの出ていない論点を、両方フラットに並べます。
この音源は、AlphaGrowthを推す立場からの熱いピッチです。勢い任せな数字や言い回しも混じります。 そこを差し引いても、診断(活動不足)と処方(誘引して定着させる)の骨格は、かなり筋が通っています。 一方で、実際に効くかを左右する"未確定"の部分も残ります。両方を見て判断するのがフェアでしょう。
🔷 説得力のある点
🔶 まだ答えの出ていない論点(賛否が分かれる)
🔢 細かい数字は"話半分"で(本筋は変わりません)。文字起こし由来の勢い数字の例:
| 国庫「1.5M ADA ≒ $3億」 | 枚数と金額の桁が合わない(聞き違いの可能性)。 |
| 「50万ユーザー獲得」 | CAC換算だと予算と桁がずれる。誇張気味。 |
| 「供給の7% → 0.05%」 | 発言者がその場で訂正。ほぼ冗談。 |
🧭 まとめ
診断(Cardanoは活動を作り、DeFiを立て直すべき)は説得力があります。焦点は、その処方が"定着"と"実行"まで届くか。 強みも不確実性も出そろっているので、一次情報(音源・提案書)にも当たったうえで、最後はご自身で判断を——というのが本資料の総評です。
Glossary
討論に登場した主要な用語をまとめました。
| 用語 | 意味(討論の文脈) |
|---|---|
| AlphaGrowth | 他チェーンで実績を持つDeFiコンサル。Cardanoに流動性・活動をもたらす提案の主体 |
| NCL | Net Change Limit(純変動上限)。一定期間に国庫から引き出せる総額の上限 |
| DRep | Delegated Representative(委任代表)。ADA保有者が投票権を委ねる代表者 |
| Catalyst | Cardanoの分散型資金提供プログラム。「実験に金を使いすぎ」と批判の的に |
| TVL | Total Value Locked。プロトコルに預けられた総資産額 |
| IL | Impermanent Loss(変動損失)。流動性提供で価格変動により生じる損失 |
| mercenary liquidity | 傭兵流動性。報酬目当てで来てすぐ抜ける、定着しない流動性 |
| Vault | 最適運用戦略を組み込んだ自動運用の「金庫」。現代DeFiの主役 |
| APY | Annual Percentage Yield(年利回り) |
| CAC | Customer Acquisition Cost(顧客獲得コスト)。業界平均は1人約150ドルと言及 |
| Midnight | Cardano系のプライバシー保護基盤。デジタルID等の本命ユースケースとして期待 |
| Midgard | Phil開発のCardano向けL2基盤(誰でもL2を立ち上げ可能) |
| RWA | Real World Assets(現実資産)。国債・決済等をトークン化してオンチェーンに載せる潮流 |
| Clarity / GENIUS Act | 米国の暗号資産関連法案。規制の明確化・主流採用の前提として言及 |
| 1 ADA is 1 ADA | Cardano界隈のガバナンス理念。討論では「商業合理性を欠く」として批判対象に |
Sources & Links
一次資料と、主要な登壇者のXアカウントです。まずは本人・原典に直接あたるための入り口として。
🎙 一次資料(音源そのもの)
X Space: Does Cardano Want To Win??? (Alpha growth edition) — この解説の元になった約4時間49分の録音(Xで再生できます)。